10.君が喚ぶから。

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 展示した時、担当の教授にも同級生達にも、急なモチーフ変更と、対象が知らない外国人の少年になっていることに奇妙な顔をされたが、作品としての評判は悪く無かった。  だが、それを完成させるまでの美月の様子は、最悪だったのでは無いだろうか。  美月は何かに取り憑かれるように、彼を――レオンハルトを思い出しながら、ひたすら描くことに没頭した。  彼の表情、彼の声、自分に向ける視線。  賞まで貰った作品だが、それは美月にとって意味のあるものでは無かったから、どんな賞であったかさえ忘れた。  梱包してある新聞紙を少しずつ剥がし、壁に立て掛ける。 「……っ」  金の髪に青い瞳、優しい笑みを浮かべてこちらを見るレオンハルト。優しい笑み……と、評したのは、制作展で批評してくれた事情を知らない同級生の言葉だ。他人から見れば、これは優しい笑みを浮かべているように見えるのかと、ぼんやりと思った。  しかし、美月からみれば、これは……違う。  あの日、最後に見た悲しげな表情を浮かべて、少年の姿のまま、こちらを見ているのだ。  背景は、自画像と対になるような辰砂(しんしゃ)に丹色。金茶に黄口朱色。  朱に見えるのは、美月が見送った朝に見た、朝日の色。  レオンハルトの瞳の青色に、そっと美月が好きな青を使った。  彼の色を、思い出しながら。 「……レオンハルト……」     
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