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その瞳に手を触れて、長い間封印していたその名を呼んだ。その瞬間――
『……き、……い!』
「え?」
『美月』
何も無い空間から、自分を喚ぶ声が聞こえた気がした。
がくん、と身体が浮く。
(まずい……これっ……この感覚……!)
まさかと言う思いが、胸を過ぎる。
一人の人間が、何度も喚ばれるなんてこと、あるのだろうか?
美月は、慌てながらも必死に考えた。
あちらの世界にもしも、また行くことが出来るなら、必要な物は何か?
咄嗟に、帰宅した時に床に置きっ放しだったバッグへ、部屋の片隅に置いてあった画材をありったけ詰め込み、部屋の電気を全部消した。
走り書きのメモに、両親への感謝を書こうかとした時、また声が聞こえた。
『美月』
今度ははっきり聞こえた。
自分を喚ぶ声は、レオンハルトの声だ。間違いない。美月の名を呼んでいる。
そう思ったら、何故か胸が歓喜に震えた。
もう、時間が無い。
今度は、後悔をしないように……する。
何があっても、それを他人事や何かのせいにしないで、ちゃんと真っ直ぐに向き合うんだ。
部屋の電気を全部消して、荷物を手に持ち、最後にレオンハルトの肖像画を、抱き締めるように腕に抱える。
「今、行くよ。行きたい! もう一度、会いたいよ……レオンハルト……」
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