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2.はじまりのはじまり。
初めて彼を見た時、私は天使だと思った。
ふわふわサラサラの金色の髪に、賢そうな青い瞳。色白でその顔立ちは甘く、可愛らしい砂糖菓子のような外見の美少年――それが、彼、レオンハルトの最初の印象だった。
「師匠、頼まれていた絵具ここに置いておきますよ?」
古めかしい小さな街角の家で、中の人間の返事も待たず、入り口の木の扉を開けて入って来たのは長い黒髪を一つに束ねた男……では無く、男物の黒っぽい服を着た女性である。全身が黒尽くめの為、黒髪と相まって肌の白さが際立つ。
「…………」
男装の女性は声をかけた師匠の方を見るが、さほどの大きな声でも無いが小さくも無い彼女の問いかけに、彼は振り返ることも無く、無言でひたすら黙々と絵筆を握っている。しかし、これはいつものことなので、彼女もまた気にせずに無言で荷物をそっと木の卓の上に置く。
テンペラと油の匂いの中、微かな筆音が聞こえるだけだ。
「……私も制作に入りますね」
そう言って軽く頭を下げて、美月は師匠のアトリエから出て行こうとした。
「美月」
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