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「おはようございます」 朝礼が始まる十分前。隣の席に一人の男が座った。名前は、古城 裕理。湊に負けず劣らずの美貌だ。 弱々しい見た目から、よく痴漢に遭うらしい。まあ、痴漢する奴の気持ちは分からなくもない。 「おはよ。今日企画書仕上げな?」 「了解です。何時頃出せばよろしいでしょうか」 「んー、昼ぐらいがちょうどいいんじゃねえの?」 抑揚がなく、人形のような動きで問いかけてきた。 無反応。 この言葉は古城の為にあるといっても過言ではないような。 けれど、無表情ではないのだ。ちゃんと笑うし、美味しいものを食べた後は顔が綻んでいる。 …それに、泣くときは泣く。 湊のことが好きで好きで、たまに相談をしてきてた。 だが、湊が影月くんと付き合っていると知った時、人間のように泣いた。 人間のように、なんて失礼かもしれないが、本当にそうだった。 人形のようだったのに、嗚咽した。しゃくりあげた。 人形にはできない動きを見た時、『ああ、人間なんだ』と思ってしまった。 そこから、古城の方からも話しかけてくれ、形上の教育係は湊だが実際俺が教育係みたいなものになった。 浪人生と聞いたが、何故浪人したのかわからなかった。 きっと、無愛想すぎて採用したくなくなったのだろう。ただ、見た目で選ばれなくて本当に良かったと思う。ブラック企業に採用され、過度なセクハラを受けてもされるがままにしそうだから。
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