1 お母さんのためのハンバーグ

1/4
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

1 お母さんのためのハンバーグ

 キッチンの背は高かった。  お母さんが小さな踏み台を持ってきてくれて、やっと大きな天板に手が届いた。ぴかぴかの銀色をした、大きな粘土板のように見えた。 「めい、お母さんも手伝おっか」  お母さんがそう言ったけれど、ぶんぶんと首を振って、自分の顔よりもおっきいボウルを目の前に置いた。 「めいが作るの」  キッチンは海のように広く感じた。  蛇口に手が届かない。お母さんが脇に手を入れて持ち上げてくれる。  レバーを押し上げると勢いよく水が出て、お母さんが慌てて片方の手で水の量を調節した。緩やかになった水に手を入れる。泡沫流が手に当たってしゅわわと音を立てた。  ハンドソープを押して、手をかき混ぜ、泡をたくさん作る。  お母さんの手が脇の下で震えている。重くてお母さんの手が大変だって言ってる。  水で泡を流して、もう手洗いはおしまい。準備完了。 「お母さん、もういいよぉ」  お母さんはゆっくりとまた踏み台に乗せてくれた。 「めいもすっかり重くなったね。お母さん支えるの大変だったよ」 「牛乳ちゃんと飲んでるからね、めいは」  自慢げに鼻の下をこする。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!