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第一章「神と卵と悪魔の幼虫」
今年も卵送りの季節がやってきた。マユにとっては、この地下都市に辿り着いてから七度目の卵送りだ。
卵送りは“小顔の神”によって定められた二つの義務のうちの一つである。もっとも、地下都市の住人達は神が降り立つ以前より卵送りをやっていたということなので、神はそれを追認しただけとも言える。
今年の卵達を抱えて地上へと上がっていくと、顔馴染みの兵士が見張りをしていた。兵士は一瞬、こんな早朝から何をしに来たのかと怪訝そうな表情をしたが、マユの抱える卵を見てすぐに合点がいったようだった。
「今日送るのか」
「ええ。でも、まだ誰も来てないのね。これではまだ風が弱いのかしら?」
「いや、これくらいの風があれば十分だ。単に君が早起きなだけだよ」
マユは安心して頷くと、風の中に卵達を放した。卵についている皮膜が風を受けて大きく広がり、強風が卵を運び去っていく。
「元気に育って戻って来ますように」
卵達を見送りながら、祈りを捧げる。マユは、そんな自分を兵士が険しい顔で見ていることに気がついた。
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