僕が産まれた日

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 僕が産まれた日という、禁句ワードを口にした父に、何も返せず、言葉を探す。 「……ったく、タレがしみてきたわ。なんかビニール袋ないのかよ」  イカ焼きを包んだ紙袋が湿ってきた。昔ながらの新聞紙に包むようなスタイルのイカ焼きは、ソファを汚してしまいそうで僕の膝の上にあるのだけれど、父の余計な独り言のせいで、少し強めに握ってしまったではないか。 「お前が産まれた日も、こんな雨が降っていたよ。あの日の俺も今のお前みたいに、何も出来ずにいたんだ。男ってもんはよ、こういう時に無力だなぁ、情けねぇなぁ。ははは」  父の独り言はまだ続いているようだ。 「……だからか、雨の日は嫌いだ」  僕の言葉に、父は瞼を開いた。 「それは、母さんが亡くなった日だからっつう意味か?」  今日の父は、やけにその日の話しから離れてくれない。  年寄りだからか、この話は長くなるのか。老眼で字が読みにくくなったと言っていたが、空気を読むってのも出来なくなったのか。
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