僕が産まれた日

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「いや、別に……」  紙袋の角を無意味になぞりながら、適当に返事をした。 「そうだとしたら、俺は母さんに叱られちまう。あの日の約束を、守れていないんだなぁ……」  窓に貼り付いては流れる、雨粒が、父の顔に点々と影を作る。それが流れる影が、汗や涙のように見えて、この人の苦労を余計と分かりやすくさせる。  やはり、雨は嫌いだ。  窓を見つめる父から目線を逸らした。今度は僕が窓を見つめる。  父は僕の方に目線を移した。 「お前が産まれた日、母さんと約束したんだ」 「……なんだよ。やけにしつこいな」  父を見ると、その目はまだ、こちらを見ていた。  ぎこちなく、目が合う。
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