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父はそのまま、話を続けた。
「この子の誕生日に、私がいなくなる事、どうか責めないようにしてあげてほしいの。素晴らしい日よ。この子が産まれた日、私が母親になった日、貴方の子供を産めた日──」
「母さんはそう言ったんだ。身体が弱いから、出産は諦めようって、何度だっていったさ。しかしあれだ、あいつは頑固だった。私の夢を奪わないでってよ。そんで、普通分娩までしやがって、無理ばかりしやがって。頭がかたいんだよ。昔っから我が強い、いい女やった」
僕は立ち上がって、雨粒が張り付く窓に手をあてた。
父の前で泣く程、弱くない。
そう、僕は頑固だ。母のように。
そして、父のように、不器用だ。
「サナエも、我が強いんだ。あのさ、もう、遅くまで仕事する事なんてないだろ。定年退職したんだし、これからは……孫の誕生日を祝ってやってくれないか」
背中から、すすり泣く声がする。
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