雨の日に──

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 今日の出産は妻だけか、それとも、優秀な旦那さんはここでは待たないのか、待合室には僕一人が座っていた。  先程から雨が降り出し、ソワソワと余計に落ちつかない。煙草でも吸いに、外に出ようかと思ったが、雨が降っているし、その間に何かあっても困る。  僕は座ったり立ったり、窓を見たり、ケータイを見たり、そんな事を繰り返していた。 「なんや、落ちつかんか?サナエちゃんは大丈夫かね?まだ陣痛室か?」  そんな僕の前に現れたのは、僕の父だ。 「来ないでいいっていったやん。体調悪いんだろ?連絡するっていったやんか」  父はポリポリと首元をかきながら、申し訳ないといった感じの笑みを浮かべた。 「待ちきれんかったんや。すまんな。今日は体調ええしなぁ、お前が何も出来ん思って来たんや。これ、サナエちゃんに」  父は紙袋に包まれたものを僕に差し出した。 「駅前でこうた。イカ焼きなんやけど」 「アホか。こんなん陣痛中に食えるかよ」  何も出来ない男が、もう一人増えただけのようだ。
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