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僕は、曰く付きのアパートを借りた。
会社からは近かったし、何より安かった。
ただ、名家の家政婦をしていた女性が、この部屋で亡くなったらしいのだが、それさえ目をつぶれば、リフォームもされて、内装もとても綺麗である。
そして引っ越しも終わり、いよいよ明日から、心機一転、スタートだ!
そしてそれは、引っ越してから十五日程経った日の事だった。
夜中の二時、中々寝付けずに、僕は台所にある冷蔵庫を開けた。
ペットボトルを取り出して、水を飲もうとした時、冷蔵庫の扉の向こうに、女性が立っていた。
「うわあっ!で、出たあ!」と僕が叫んだのと同時に「坊っちゃま?」と女性が言った。
「え?」僕は彼女を見た。
髪はショートで、小顔の可愛らしい女性だった。
しかし肌は透き通るように白く、足元はスカートが長すぎてよく見えない。ただ、間違いなく白いエプロンは着けていた。
幽霊だ!…そうに違いない。
「あなたはもしかして?亡くなった家政婦さんですか?」僕が訪ねると「はい。坊っちゃまもお変わりなく」と彼女は頭を下げた。
「え?いや、人違いですよ。僕はあなたの言う坊っちゃまではありません」と否定した。
すると彼女は「え?違うんですか?本当に良く似ていらっしゃるのに」と目をしばしばさせた。
そして彼女は「私はタエと申します。二十五歳になります。いつも坊っちゃまのお世話を、させて頂いておりました。それにしても、そっくりでございます。
凛々しい眉毛に赤ら顔、話しをさせて頂くと、いつも頷いておられました」と話した。
「あの?それ赤ベコですけど?」
「はい?」タエは食器棚にある、赤ベコの置物に向かって、話しかけていた。
「タエさんの視力は?」僕が訪ねるとタエは
「0.01ですけど」と赤ベコに応えた。
あんた坊ちゃんの顔、知ってるの?となんだか怪しくなった。
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