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そして仕事が終わり、その晩。
「坊っちゃま、お勤めご苦労様です」とタエが現れた。
「あのねえ。夜中の二時に起こされても、困るんですけど」と布団をまくり上げるタエに言った。
「今日は、手作りのケーキを焼こうと思いまして」とタエはやる気満々だ。
「僕は少し眠るから、朝までに完成させて下さい。お願いします」と念を押して、布団に潜り込んだ。
そして朝。
「嘘でしょ?」
テーブルの上に、生クリームが溢れまくって、床まで滴り落ちている。
ボールや食器は洗わずに、シンクの中に放り込まれていた。
そしてケーキはと言うと、レンジの中で爆発していた。
そして、会社に遅刻した。
もう頭にきたぞ! 今日こそ言ってやる!
そしてその日の、夜中の二時。
「お勤めご苦労様です。坊っちゃま」
そしてタエは、僕の枕元で掃除機をかけていた。
「あのさあ、もう寝かせてくれない?お願いします」なんとなく、健気なタエを見ていると、怒る気が失せていた。
幽霊としては、いい幽霊なのだろう。
しかし、家政婦としてはどうかなあ?
「僕はベランダで寝るから、思う存分やりなよ」僕は寝袋を抱えてベランダに出た。
アウトドアは趣味なので、苦にはならない。
いや、ましてこの方が、良く寝れるのではと思った。
「気遣いありがとうございます。チリ一つ無いように頑張ります」とタエは鼻歌交じりに掃除を始めた。
僕は耳栓をして、頭から寝袋を被った。
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