神の落日、フランケンシュタインの夜明け

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 不意に誰かに呼ばれたような気がして背後を振り返ったが特に何もなかった。しかし私はまるで何かに誘われるようにそちらへ向かって歩き出していた。  湿った土と腐った落ち葉、枯木を踏み砕きながらしばらく歩く。薄暗い原生林で一人、普通なら恐怖が込み上げてきてもおかしくない状況だが何故か私の心は母の腕に抱かれているような平穏に満ちていた。  しばらく歩くと一直線に地面が窪んでいた。枯れた堀のようなその窪みに沿って歩いているとやや開けた所に出た。円状に窪んだそこは恐らくは泉だったのだろう。しかし水の気配は無くやはり枯れ果てている。  そしてそこで初めて私は私以外の存在と遭遇した。 「め、珍しいな。きゃ、客人など久しぶりだ」  顔を上げたのは襤褸布を纏った浮浪者のような老人だった。 「あの……失礼します?ここは?」  私の問いに老人は怪訝そうに眉を顰めた。その顔には彼が経た時の重さが深く刻まれている。 「こ、『ここは?』とは、おかしなことを言う……」  彼は温和な微笑みを浮かべた。 「お、お主が、き、来たんじゃないか」  要領を得ない返答に私は口の端を歪めた。そんな私の様子がおかしいのか老人は小さく喉を鳴らした。 「ああ、すまない。吃音ではない。久しぶりに声を出したから、でも大丈夫。ようやく調子が戻ったよ」     
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