神の落日、フランケンシュタインの夜明け

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「そのそも、肉体だってただの物体なのだから経年で劣化するのは当たり前でしょう。そんなのは嘆く様な事じゃない。壊れたパーツは取り換える、常識でしょう。そんなただの劣化で人間から何かが失われるなんて不条理はまるで悪い冗談ですよ」  かつて人は生まれ、やがて老いて死んだ。そんな理不尽が当たり前の様にまかり通っていた。だが人類の英知は今ではそれを克服した。『老衰』などという無理やりな言い訳にだんだんと私は苛立ってきた。だって老人は私に意地悪をしているようではないか。  しかしそんな私を彼は慈しむ様に、どこか寂しげにそっと目を伏せた。 「人の子よ。生けとし生ける者は全て死ぬ。それが自然の摂理」  そしてそんな、時代錯誤(アナクロニズム)を零した。 「は。なんですかそれは」  だから私は可笑しくなって思わず吹き出してしまった。 「人が死ぬ。そんな理不尽がまかり通っていいはずがないでしょう。いいですか?人の命は重いんですよ。独立した一つの自我にとってはそれが観測できる範囲が世界だ。だからそれを感じ取る意識の消滅はそのまま世界の消滅を意味します。だから個人の命は宇宙より重いんですよ」  私が常識を語るたびに老人は打ちのめされていくように表情を曇らせていった。     
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