第三話「屋敷の住人」

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第三話「屋敷の住人」

1  いちかを乗せた黒いワゴンが、神戸山中の屋敷の敷地内に入って、約一時間が過ぎた。  屋敷から一キロほど離れた森の中で手頃な木に登り、ダニエルとデビッドはじっと屋敷内の様子に目を凝らした。  木の根元では、プラトンが退屈そうに寝そべっている。 「どうやら連中、いちか様に危害を加える様子はありませんね」  デビッドが呟き、ダニエルも「そのようだな」と頷いた。  ヴァンパイアの聴力はかなり鋭い。  山中の静けさにより、一キロ離れた森の中にも、屋敷内の会話は小さく届いていた。  誘拐犯四人はいちかを車から降ろすと、すぐに屋敷の西側二階の部屋に運んだ。  そこでダニエルが予言した通り、ライナスというヴァンパイアが現れていちかの怪我の手当をし、その世話を「ヨーコ」という年配のヴァンピールに命じた。  ヨーコという女ヴァンピールは、眠るいちかの体を丁寧に濡れタオルで拭い、新しい服に着替えさせた。  驚いたことに女ヴァンピールは家庭持ちで、夫と息子がいた。  夫はヴァンピールだったが、息子は普通に人間の子のようだった。     
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