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73同応接室
美賀子らが入ってくる。
及川「いや、よく来てくれたね」
ここから先は全員立ったまま会話を続ける。
一郎「一条さん、裁判お疲れでしたね」
美賀子「お騒がせしております」
薫「結局、私らどうなったのか分からなかった」
文香「判決文むずい」
美賀子「あれは、私たちは刑法では無罪だけど、観察処分にはなっているってこと。つまり、今後は当局の監視下に置かれるということなの」
及川「保護といっていただきたいね。私はね、君たちの活動精神には大いに見るべきところがあると思ってるよ」
薫「法律顧問。わたしたちのことを」
及川「こういう志ある若い人たちを無駄に潰してはいけないと思ってね。このたび、BI党を結成して、君たちには、その青年局に入ってもらおうと思っている」
佐藤剛「BI党?ベーシックインカムを標榜する政党ですか?」
及川「そうだ。とりあえず事務局長には、鈴木審議官に就任してもらう。君たちには、差し当たって、鈴木審議官の手伝いをしてもらいたい」
及川「よろしく」
帯刀無我「お仕着せにしてお手盛りお政党ですか」
及川「そんなことをいうものではない。行政代議員の一部が、UI党を離脱してBI党の旗揚げを宣言す予定だ。来週は、地上波のワイドショーが盛り上がるよ」
美賀子「まあ、いいでしょう。おおっぴらにベーシックインカムが主張できるのでしたら」
及川「先日、公共放送の木戸総局長と話していてね。来年の朝ドラのヒロインには、ぜひ、一条さんを、ということになってね」
美賀子「有罪ではありませんが、観察処分中では問題があるのでは?」
及川「一応、大河ドラマの撮り直しの損賠を、朝ドラのギャラと相殺で、ということで世間の批判をそらす。
題材も決まっていてね『小鉄の娘』だ。侠客・会津の小鉄の娘に生まれたヒロインが、やくざの娘とさげすまれながら、自由民権運動の時代を、はなれごぜだった母親によって育てられた音楽の道で生きていくというドラマだ。脚本は、AI橋田壽賀子か、AI寺内小春か、どちらでも好きな方を選んでくれたまえ。郊外の山脈の向こう側に大阪のオープンセットも作ってるよ」
美賀子「(取り込まれていることを察している)」
及川「ただ、その前に修学旅行にいってもらいたい」
薫「修学旅行?」
文香「なんで今更?」
美賀子「事件の影響を拡大させないためでしょう。私たちが世間の注目を集めている間に政治活動をすれば困るのは誰か?」
及川「いや、君たちもしばらくは、この第四東京市にいずらいと思ってね(笑)」
美賀子「いいでしょう。私たちにも休息が必要です」
及川「そうかね。クルーズ船での旅だ。今度、第四東京市に入ってくる『オーシャン・パシフィック号』に乗船していただく予定だ」
ひとり悦に入る及川を醒めた目で見る美賀子
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