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私は覚悟を決めると洋服屋に行った。肩口の開いた大きめのブラウスと七分丈のデニムジーンズを買うと試着室に入って素早く着替えた。決して高い洋服ではなかったが、細っそりとしたスタイルのせいか爽やかなモデルの休日と行った格好になった。
私は濡れた服をもらった紙袋に詰めると売り場に出た。
「よろしければお使いください」
「あら、ありがとう」
店員が傘を渡してきた。迷わず受け取る。
「これも美人効果かしら?」
「ポジティブ、ポジティブ、何事もいい方に考えるのだ」
バックから顔を覗かせた叩かれ様が笑顔で言った。ポジティブか。私は店の外で傘の花を開かせると、華麗に腰をくねらせてランウェイスタイルで夜の街を闊歩した。目的地は奥村くんの働くカフェだ。
私はお店の前に着くと傘立てにナイロンの傘をさした。そのまま真っ直ぐ進むとウンター席に座り、メニューも見ずに注文を入れた。
「カプチーノ」
「かしこまりました」
奥村くんは机の向こうでコーヒーカップを用意するとエスプレッソマシンのスイッチを押した。それからスチームノズルをアルミのメジャー容器に差し込むと、なかのミルクを泡立て始めた。うっとりするような長い指で行われるその作業は、流石一流のバリスタと思わせる隙のない動きだった。
奥村くんは温めたミルクを、香り立つエスプレッソのうえにそそぐと、最後にミルクのムースをスプーンですくいカップのうえをおおって見せた。全てが完璧だ。
「おまたせしました」
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