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「ありがとう」
私はカウンターに置かれたカップに砂糖を入れるとカプチーノを一口飲んだ。やわらかな甘味が口のなかに広がっていく。どこかの馬鹿がバッグのなかから顔を覗かせ、幸せの時間をぶち壊してきた。
「あれがお前の本命か? なかなかいい男じゃないか」
「黙れ!」
私は叩かれ様の頭を叩いた。相変わらず叩かれ様は叩かれると嬉しそうだった。
「いやん!」
いい男は分かっている。だから好きになったんだ。美人になっても胸のドキドキは止まらない。寡黙に働く奥村くんの姿もやっぱり格好良く見えた。
「告白、告白、頑張って人生を取り戻すんじゃ」
「本当、黙って!」
私は叩かれ様をバックのなかに押し込んだ。ドタバタした様子に奥村くんが声を掛けてきた。
「どうかなさいましたか?」
目線が合うと私はドキリとした。愛想笑いをしたあと言葉を紡ぐ。
「……店員さんは彼女はいるの?」
「今は募集中です」
「じゃぁ私が立候補してもいい?」
驚くほど自然に言えた。奥村くんは言った。
「嬉しいですけど、ちょっと声が苦手ですかね」
「声……?」
「オーダーです」
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