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「戦乙女を喚ぶ」
バルドルの問いに、オーディンは短く答える。
戦乙女……それは最高神に仕える侍女にして騎士。その神格は低く、下級神や半神などの下位神性に属している。
彼女たちはラグナロクに備え、人間界の戦場に散った戦士の魂を選定し、神々と共に戦う兵士としてヴァルハラに迎え入れる役目を担う。
「では、直ちに呼んで参ります」
「その必要はない」
バルドルは戦乙女たちに招集をかけるべく退室しようとするが、オーディンがそれを手で制す。
そして彼は玉座より立ち上がり、床に二重円を描き始める。
円の内側には世界樹の上に成り立つ『九つの世界』を表す図式、二つの円の間にある帯状の空間にはルーン文字が刻まれてゆく。魔法陣だ。
これは異世界から対象を呼び寄せる召喚魔法ではない。
『その世界』の土地に満ちる魔力を感じ取り、その場所に移動する『転移魔法』の術式を応用した『擬似』召喚魔法。
対象の魔力を探り当てた時、その真下に魔法陣が展開し、術者のいる場所に転移させるものだ。
「我が名はオーディン、神々の王。我に傅く乙女の騎士よ、英霊導く戦女神よ、我が声に耳を傾けよ」
床に魔法陣を敷き終えたオーディンは、陣の前に立って呪文を唱え始めた。
魔法陣から青白い光が放たれ、オーディンが詠唱を進めるたびその光量を増していく。
「戦乙女が一人よ、『神の遺産』の名を持つ者よ。今こそ我が呼びかけに応えよ。汝が使命果たさんがため、この神界の何処より、我が下へと来たるべし……!」
詠唱が終わると魔法陣から発せられる青白い光が羽根となって舞い、円の内側を取り囲む。
渦巻く光の羽根が消える頃、その中心には……一人の女性が立っていた--。
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