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「思い出しました?」
ナオはあの日と同じように、雨の滴を微かに飾った髪を目元で揺らしながら首を傾げる。
忘れていたわけじゃない、と言おうとしたところで、ナオの後ろから女の子達の声が聞こえた。彼女たちが「気に食わない」話をする時の独特のトーンが私の耳に届く。
「…ねぇ、鹿賀くんと話してるの、水原先輩だよね。」
「髪切ったんだー。美人はいいよね。何しても似合うんだから。」
「でも遠野先輩にフラれたんでしょ。イトコ相手に失恋なんて可哀想~。」
くすくすと楽しそうだ。気分のいいものじゃないけど、慣れたものだし特別気にするほどでもない。真剣に憐れまれたりするよりよっぽどマシだ。情報がリークされている原因の一端だって自分にあることがわかっている。
9年間、私はまるで三流ドラマの悪役みたいに、大貴に近づこうとする女の子たちを追い払ってきたのだ。そして、そのとおり三流ドラマの悪役らしい末路を辿っている。
今、大貴の隣にいるのは太陽みたいな笑顔を持った、元気で素直で、お人好しすぎる女の子。私にも「琴ちゃん。」と嬉しそうに手を振ってくる。敵わないし、嫌えなかった。
結局のところ、世の中はちゃんと、光に向かうようにできている。
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