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「ナオって、本当は植物なんじゃないの。」
目の前の人懐っこい顔を見ながら呆れ半分嫌味半分に言う。
私と違って色素の薄い柔らかそうな髪は、雨の湿気を吸っていつもよりもふわふわとして見える。背の高いナオは、グラウンド側の通路から私のいる図書室の窓を覗き込むようにして立っている。
何が嬉しいのだか、汗と雨の混じった額をスポーツタオルで軽く拭いながら、もうかれこれ10分以上、ナオはここで私が本を読むのを眺めているのだ。
無視し続けようと思えばそうできたのだけど、こいつとの根競べに勝つ自信はそれほどない。できれば、適当に会話をして、満足してもらって、お帰り願いたかった。ずっと読みたかった小説に集中できない。
そういうわけで、とりあえず発してみた大した思い入れのない言葉に、ナオは律儀に首を傾げた。
「おれ、人間ですよ。なんで植物なんて思うんです?」
「いや、本当に思ってるわけじゃないけど…。雨が嬉しいなんて、植物みたいだと思って。」
さすがに適当すぎる会話の切り口だという自覚はあったけど、まったく心にもない言葉というわけでもない。雨の日に見るナオは嬉しそうだ。澄んだ目といい、日に当たると透けるように輝く綺麗な髪といい、ナオには晴れた青空の方が似合いそうなのに、それでも雨の日に見るナオは生き生きと弾んでいるように見える。
「よくわかりましたね。おれ、雨が好きなんです。」
ナオは長身をさらに伸びあがらせるようにして窓からこちらに乗り出してくる。髪や顔から滴り落ちる雨の粒が図書室の本に落ちないかはらはらしたが、押し返すわけにもいかず軽くため息をつくにとどめる。
「…そう。良かったね。」
「冷たっ。ここは理由とか聞く場面でしょうが。聞いてください。」
一応後輩だから言葉遣いだけは敬語だけど、私の都合を優先する気はほとんどない。私に進んで話しかけてくる人物は希少だけど、だからといって尊重したいとも思えない。妙な奴に懐かれたものだ。
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