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「簡潔にまとめてよ。そんなに興味ないから。」
そう言いながらとりあえず読みかけていた小説を閉じる。どうせこのままでは頭になんて入ってこない。それに、そんなに興味はないけど「少しは」ある。
雨が好きな理由なんて、私には想像もつかないから。私は、雨なんて嫌いなのだ。嫌なことは全部、雨の日に起きる。
大好きな飼い猫がいなくなった日も、盲腸で入院した日も、そして、人生最大の失恋をした日も、必ず雨が降っていた。あざ笑うような、不用意に憐れむような、正気を、現実を投げ出すのを許さず繋ぎ止めるような、雨が降っていた。
ナオは文庫本を閉じた私の手元を見て、満足そうにふわりと微笑む。
「まぁそう言わずに。おれが雨を好きなのは、雨の日は先輩に会いに来られるからですよ。先輩、だいたいここで本読んでるでしょ。おれはコートが雨で使えない日はこの辺りでトレーニングになるから、練習の合間に来やすいんですよね。」
「……あ、そう。」
さも重大な秘密を打ち明けるように言われて肩をすくめる。少し期待した自分もどうかと思うけれど、ここまでくだらない理由だとは思わなかった。
そう、くだらない。そんな理由で雨降りが嬉しそうなナオも、そんなナオに呆れながらも、ほとんど同じような理由で毎日ここで本を読んでいる自分も。いや、年季と頻度と思い入れの強さを含めれば、私の方がくだらなさは格段に上だろう。
ナオが話に来るのは確かに雨の日がほとんどだけど、私は晴れの日も曇りの日もだいたいここにいて、本を読んで、グラウンドを見て、「彼」を見ていた。
そのことにまったく意味のなくなった今でも、その習慣は私の身体と時間から切り離せないほどに馴染んでしまっている。ナオみたいにさらりと言える笑い話じゃないのだ。
もっと重くて、湿っていて、そしてすごく、大事だった。
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