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9年。それが、私が大貴を想っていた時間で、その時間は、今年になって「失恋」という2文字に集約された。
大貴が「琴はすごいな。」と笑う顔を見るために、スポーツも勉強もやり切ってきた。今になって気づいている。こんなに、自分の生活何もかも、大貴一色にしなければ良かったのに。
今の私には何もない。もう少し正確に言うと、私のためのものは何もない。自分の行動一つ一つが、自分が刻む時間の一秒一秒が、行き場を失くしてどうしようもない。
馬鹿な女だなぁとしみじみ思う。でもやっぱり大貴を好きでいたことを後悔もできなくて、自分を可哀想とも思えないから、泣くにも泣けない。
「もうちょっと感想がほしいんですけど。」
私の都合なんていつもどおりお構いなしのナオは、特に不満げでもなくそう言って笑う。私のこんな反応にはもう慣れっこなのだろう。
いいかげん、怒るか呆れるかめげるかすればいいのに、ナオはいつも笑う。雨の日にいつも以上に不愛想な私の前に現れ、8割方自分でしゃべって、2割くらいの私のそっけない返事を聞いて、機嫌よさそうに笑って部活のトレーニングに戻って行く。ここ最近、そういう謎のルーティーンが完成されつつある。
面倒だとは思いながら、自分の側の行動を変えるほどのエネルギーは今の私には到底ない。
「とても(どうでも)いい話だと思う。」
「心の声漏れてますって。本当正直ですよね。そういえば先輩に助けてもらったのも雨の日だったな。やっぱり、雨の日に縁があるんですよ。」
「…助けた?私が?」
屈託なく言うナオの言葉にまったく心当たりがなくて、訝し気な声が出た。雨の日に捨て猫と捨て犬と迷子のカメを拾ったことは、ある。でも、ナオを助けた覚えはない。
「えー…。それも憶えてないんですか?ショックだなぁ。入学式の日、生徒指導にからまれてるおれを助けてくれたじゃないですか。髪の毛引きちぎって。」
「…ああ、あれね。その説明もどうかと思うけど…。」
そう言われると、確かに出来事自体は憶えていた。私の方には「助けた」つもりはなかったから、すぐには思い浮かばなかったのだ。
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