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「璃子先生?」
「・・・ん?」
「どうしたんですか?ボーっとしちゃって・・・」
「あ・・・うん・・・」
あいかわらず、西日が眩しい午後の仕事場の一場面・・・
楠木璃子は、担当編集者の吉田光代(通称:みっちゃん)の声に振り返ると、テーブルの上に置いてある一冊の本を見つめた。
『二季草 ~futakigusa~ 』
先月発売されたその本は、璃子にとって初の長編恋愛作品であり、身を削って書き上げた大切な思い出のアルバムでもある。
「この状況だと、早々に増刷が決まりそうですね。社の方にも、反響の声がたくさん寄せられていますし・・・」
「ふーん・・・」
「あら、先生。もうちょっと、お喜びになったらどうですか?」
「べつに・・・喜んでないわけじゃないけどさ。」
思い出すのは、彼の香りと、藤の花・・・
『二季草』
彼は、気づいてくれるだろうか?
タイトルに付けられた、「藤の花」の別名に・・・
あなたが教えてくれた、その名前に・・・
この本の中には、私の一生忘れる事の出来ない彼への思いが・・・たくさん詰まっている。
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