前兆

3/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 こんにちは。最近はすっかり雨続きですね。空梅雨の心配はなさそうですが、こうも雨ばかりだと気が滅入ります。  図書室には、相変わらず誰もきません。雨だから、とみんな廊下を走りまわっています。廊下は走らない。きっとみんな小学校からずっと言われてきた言葉だろうけど、これほどひとに染み込まない言葉というのもめずらしいのではないでしょうか。そんなこと言ってても、わたしもたまに走るんだけど。実際あぶないはずなんですけどね。  聞いてほしいことがあるの。  なんて書き始めればいいのか、思いつかなくて。だから、あなたに聞いてほしいってお願いさせてください。実際には聞くんじゃなくて、読む、なんだけど、そんなことはできれば放っておいてほしいです。  いちばん仲良くしてる子が、腕を折ってしまいました。わたし、なんて言えばいいか、どうしていいか、わからなかった。  彼女はバスケ部の部長で、今週末、大会だったんです。全国まである夏の大会に向けて弾みをつける為にも、ぜったいに優勝する、って意気込んでたんです。 咲が倒れて、みんな駆け寄って。大丈夫、大丈夫か、先生呼ばなきゃ、って。わたしもなにかしなきゃ、って思うのに、足がすくんで動けなくて。  咲のところに行きたいけど、行ったところでどうするの? もう他のみんなが心配してて、じゃあそれなら、わたしの言葉なんて咲には必要ないんじゃないの。そう思うと、怖くなった。  立ち尽くすわたしと、先生に連れられて保健室に行く咲と、一瞬、目が合ったの。すぐ に、ふい、とそらされちゃった。  わたし、嫌われちゃったかな。  すぐに駆け寄って、声をかければよかったのかな。  大丈夫?って、大丈夫じゃないの解ってても言うべきだったのかな。  でもそれってわざとらしくないですか?  グチっぽくてごめんなさい。雨続きだからかな。ちょっと気が滅入っているのかも。  次には何か楽しい話ができればいいのだけど。  また、好きな本の話、聞かせてください。この前の手紙にあったパーカー・パイン氏、ほかの作品とは一風変わっていてすごく面白かったです。  では、また。  あなたの日々が安らかでありますように。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!