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「なんで何も言ってくれないの」
咲に連れられて出た渡り廊下。
午前の中休みは十五分。降り続く雨のせいもあって、教室外に出ようとするのはお手洗いか購買に用のある人くらいだ。だから、教室から購買に向かう道筋にはないこの渡り廊下にわたしと咲以外の人影は無く、辺りを支配するのは廊下脇に広がる園芸部の菜園の草葉に落ちる雨粒の音と、咲の言葉だった。
そっと咲はわたしを見た。降ろした長い髪の隙間から盗み見るように。
いつもならば全部まとめて高い所でくくられている髪が、やんわりと彼女の表情を遮りながら湿気た風に揺れていた。
なんて、言ってほしかったの。
ほんとうのことを言えば、わたしも尋ねてしまいたかった。でもきっとその言葉は咲を傷つける。だって、まるでわたしが咲のいいなりみたいで、まるで友達じゃないみたいだ。
じゃあ、なんて返せばいいんだろう?
手紙に書いたこと?
直接言ってしまったなら、本当にそう思ってるってぜったい聞こえないことが解り切っているのに?
咲はちらりと、わたしの方を見ようとする素振りを見せただけど結局それは素振りだけだった。それから、雨音にかき消されてしまいそうな声音でたずねようとした。「みはるは、……わたしのこと、」
だけど、そこから先は言葉にならなかった。わたしには咲が息を吐く音だけが聞こえて。
「……咲!」
引き留める間もなく彼女は走り去った。わたしの呼ぶ声にも、とどまってはくれなかった。一瞬見えた咲の横顔に、わたしは制服のスカートを爪が食い込むほどに握りしめた。あんな顔をさせたくはなかったのに。
上に広がる枝で鳥でも身じろいだのか、落ちる大粒の水滴でトタン屋根がばらばらと鳴る。雨樋を伝って落ちた雫が頬を掠めた。
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