波乱

4/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 先輩はちょっとの間、まじまじとわたしを見てためらいがちに言った。 「もしかして、ちょっと元気無い?」  図星だった。  一年と少しぶりなのに、どうしてわかるのだろう。驚いた顔をしたわたしを見て、先輩はすこし笑った。  話してみるべきだろうか。相談してみるべきだろうか。  だけど、迷惑じゃないか、そんな話されたって先輩も困るんじゃないか、そんな考えが邪魔して、わたしは曖昧に愛想笑いを浮かべて俯くことしかできなかった。  それを知ってか知らずか、先輩は長めに切り揃えたわたしの前髪をそっとかきわけて、こちらを覗き込むと微笑んだ。額に触れたゆびさきに少しどきりとした。だけど彼女は、安心する、安心させる目をしていた。 「大丈夫よ。屹度、ね」  千紗都先輩は一度、元気よく笑うとその手を降ろした。落ちる前髪、その向こうでその目は不思議とどこか寂しげに見えた。なんでそんな表情をしているのか、わたしは不思議に思った。 「じゃあ、待っている人がいるから、またね」  みはるちゃんとおんなじ、先輩はそう呟くように言うと、さらりと手を振って去っていった。わたしは先輩の残した言葉を不思議に思いつつも、控えめに手を振り返しながらその背を見送った。先輩のさす傘の紺の縁が公園を囲む塀の向こうに消えてようやく、わたしは公園に来た目的を思い出して辺りを見回した。  もうすっかり繁った葉の上に、立派な青紫のガクアジサイが咲いていた。その緑の覆いの向こう、ほどなくしてわたしは目的の手紙を無事に見つけることができたのだった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加