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気がつけば、いつもの場所にわたしはいた。
うつくしい声はいつものように啼いていたけれど、いつもと違って一向にわたしの元にやってこなかった。わたしは、前の夢と同じように、ひざ上でそのあたたかみを感じながらその声に耳を傾けたかった。
声の方に近づこうとしたわたしを、整然と並んだ鉄がさえぎった。
(そうだった)
そこでようやく、わたしは鳥籠の中にいたことを思い出した。見回して、はじめて、出口がないことに気がついた。わたしはすぐに途方にくれた。
目の前に近づいた鉄の棒のひとつに触れると、床と同じひんやりとした感触があった。油の馴染んだそれから錆の匂いはしなかった。きっとよく手入れされた状態なのだろう。掴むわけでもなく、なんとなく指を這わせたまま、わたしは茫然と籠の外を見ていた。
どこまでも広がる白い世界。
わからない。もしかすると、わたしの目の前には一枚の大きな白い紙が広げられているだけかもしれなかった。
そのあちらを、こちらを、うつくしい声が飛ぶ。目に見えない小鳥が飛ぶ。
とおく、ちかく。
その音が繰り返されていることに、ふと気がついた。最初に聞いたときとはすっかり違う啼き方だったけれど、その声のうつくしさは変わらなかった。
あれなら、わたしも真似して歌えるかもしれない。
わたしの直感がささやいた。たどたどしくわたしは声を出した。まだ啼き方を知らない雛鳥のように。応えるように、小鳥は一際おおきくうつくしく啼いた。負けじとわたしも声を出す。小鳥は笑うように啼いてから、わたしの声を追うように歌った。
どれくらい歌ったかわからない。
それほどにわたしは夢中になっていた。歌うのがこんなに楽しいなんて、知らなかった。
ふと気がつけば、目の前に扉があった。
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