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変化
ざあざあ、雨が降る。
雨脚は一層強まったようだった。ひと際大きくなった傘に当たる雨音に、わたしは夢の世界から引き戻されたらしかった。傘の範囲には降らなくても、腰掛けたベンチをつたって雫はスカートにしみていく。
三日ぶりの手紙を読んでからベンチに座って物思いにふけるうちに眠ってしまっていたらしい。このところ眠りが浅くて見ていなかった夢は、久しぶりにわたしの前に現れたと思ったら、それまでに無かった鮮やかな色とさわやかな風を残していった。
身体はとうに冷え切っていた。だけど、わたしはここを立って家へと帰る気にはならなかった。左胸の内ポケットには、さっき読んだ手紙を仕舞っていた。そうしたら、さっきまでの夢の中の歌みたいに、寸でのところでしのび寄る怖気を追い払ってくれそうな気がしたから。わたしは、咲を待っていた。
たまに吹き付ける風で飛んできた水滴を吸い次第に湿っていった髪先から時折雨水が滴るのをぼんやりと眺めながら、わたしは意識を学校よりの公園入り口にずっと向けていた。
学校が終わった後は病院に行く、と咲は今朝言っていた。こんな雨の日に、しかも病院のあと、公園に立ち寄るかなんてわからない。 だけど、帰りには公園の中を通って帰るのが日課だ、ってずっと前に言っていたから、今はその言葉を信じるしかなかった。わたしは、どうしたって今日、咲に会いたくなっていた。
雨脚は強まったり、弱まったりを繰り返しながら、次第に引いていった。
雨というよりは霧に近い水滴がふわふわと舞うように降り始めた頃、わたしはそっと傘を降ろした。ひと月前に比べると、気づけばずいぶん日は長くなっていた。十七時半を過ぎた薄暮の中、わたしはいつのまにか電灯が点いていたことに傘をたたんでから気がついた。白く光に透けて微かな風にもふわりと舞う霧雨は、不思議とうつくしかった。
「咲、はやくこないかなあ」
綺麗だから、一緒に見たかった。自然と衝いて出た言葉だった。
夢の中の歌を口ずさむ。ますます咲に会いたくなった。
仲違いしたことなんて、考えからすっかり抜け落ちていた。
「みはる、」
だから、後ろからかけられた声に、ものすごくびっくりした。
だけど、その声を聞き間違えることはなかった。
「え、さ、咲!?」
その名を呼びながら振り返ると、 驚いた顔の親友がそこに立っていた。
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