日常

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 よく晴れた日にわざわざ図書室に来るような生徒は数えるほどで、いや、数えられないこともある程度で、まあ、つまり、はっきり言ってしまえば、ほぼいないってことだ。だから図書委員はたいてい暇だった。なんの仕事も発生しないうちに昼休みが終わることもままあるから、行くのが面倒だ、と二年生が愚痴をこぼしているのをつい先頃も耳にした。実際、図書委員の仕事をサボる人は多い。  確かに、ただぼんやりと椅子に座って貴重な昼休みを過ごしてしまうのはもったいない、という気持ちもわかる。二年の時、一緒に図書委員をしていた子に、サボっちゃえばいいのに、と言われたことだってある。だけど、わたしはそれも曖昧な笑みで誤魔化して、ちょっと頑なになりながらもその仕事を続けた。一年生の頃からずっと図書委員を続けてきて、一度としてサボったことはなかった。  いや、正確には、サボれなかったのだ。  これまでの学生生活、特に問題を起こすこともなく、とりたてて先生に反抗したりすることもなく、ふつうに、無難に、おとなしく過ごしてきた結果、わたしは色んな大人や友人、時には後輩からさえも、「真面目だ」と評されるようになった。良く言えば「品行方正」となるのだけれど、様々な舞台で活躍する友人やクラスメイトたちと彼ら彼女らに投げかけられる賛辞に比べれば、それは無個性と変わりないようにしか思えなかった。  だからといって、彼ら彼女らに匹敵するようなものはわたしには無かった。強いてあげればちょっと勉強ができて本が好きということくらいで、他に習い事をしていたことも無ければ特別得意なことがあるわけでもない。だから、その「真面目」がわたしにとっては他人から得たほぼ唯一の評価だった。たとえそれが時にマイナスの意味を帯びていても、無個性とほぼ変わりがなくても、わたしにとっては、確かに拠り所として存在していたのだった。  だから、サボれなかった。そうしたら、「真面目」ではなくなって、わたしがわたしでなくなってしまうから。評価、価値を失ったわたしは、きっと誰にも見向き去れないだろう。別にとりわけサボりたい理由があるわけではなかったけれど、そこはかとない圧迫に息苦しくなることが、たまに、ごくごくたまにあった。けれどそれは、わたしがわたしの形を保つのに必要な圧迫で、結局諦める以外の選択肢は残されていないのだった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!