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目を開くと、頬にひやりとした感触があった。
それに驚いて、だけど何故か気だるくて、だらだらと起き上がり周りを見回すと、わたしは鉄の骨組みに取り囲まれていた。不思議な心持ちがした。
わたしの寝ていたのは円い鉄板の上で、その端からは小指ほどの太さの鉄の棒が均等に並んで生えていた。整然と並んだそれらはわたしの手がぎりぎり届きそうな高さまでは、すっと垂直に延びていて、そこから先は内側へと倒れこむようにゆるいカーブを描き、ちょうどわたしの寝ていた所の真上の一点に集まるようにくっついていた。
それが何であるのか、そのことについて考えることはなかった。普通なら考えるはずのことに、思考は及んでいかなかった。
ぺたりと座り込んだわたしは、ただ周りを見上げる。鉄の檻の向こうには、ただただ白い空間がひろがっていた。そのことに何の疑問も抱かずに、わたしはただ斜め上を見上げつづけていた。
どれほどの時間が経ったかはわからない。
ふと、微かな鳥の声が聞こえた。
それを聞いて、わたしはそれまでその場所でまったく音のしなかったことに気がついた。
鳥の声は、次第に近づいてくる。
ちちち、ひよ、ひよ。
うつくしい声だった。その声の主を探して、わたしは首を巡らせた。だけど、鳥の姿をみとめることはできなかった。
鳥の声は、さらに近づいてくる。
もう声はだいぶ近かったけれど、その姿は目に入らなかった。わたしは鳥を探すことをあきらめた。そのうつくしい声が聞こえるだけで満足したから。
もっとよく聴きたくて、わたしはそっと目を閉じた。
声の主は、もうすぐそこまで来ていて、わたしのすこし上のあたりをくるくる旋回しながら啼いているようだった。
ふいに、急速に、声が近づく。
それから、むき出しのひざの上になにかちいさくてかるく、ふわふわしたあたたかなものが、そっと乗っかるのを感じた。
わたしは目を開く。ひざの上にはなにも乗っていなかった。不思議と驚きはしなかった。
うつくしい声だけがさえずる。わたしの素肌の上で。
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