ゆめ

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 目が覚めて、わたしは夢を思い返した。  普段は夢なんて大して気にしないですぐに起きて着替え始める。  だけど、今朝はそんな気になれなかった。まるで夢の中と同じように気怠くて、わたしはただつらつらと夢を思い起こし始めていた。  めずらしく、感触のある夢だった。鉄板のひんやり、そしてひざ上のあたたかみ。音があるのもめずらしかった。まるで現実のようですらあった。あんなにも非現実的な空間だったのに。夢の中でわたしが入っていたのは、巨大な鳥籠だった。そしてそこに飛んできたのは、うつくしい声の透明な鳥。 (なんでこんな夢を見たんだろう) もう数年前、この地に来る前に通っていた小学校のクラスメイトに占い好きな子がいた。彼女の影響で、うちのクラスでは様々な占いが流行したのだが、そのうちのひとつに夢占いもあったことをわたしは思い出した。  もしもまだあの地にいて、同じ中学に通っていたなら、今日の夢の意味を教えてもらえただろうか? そんなことを考える自分が少しおかしくて、一人でちょっとだけ笑った。自分で調べる気がない時点で、きっともし学校で会ったとしても訊くのは忘れてしまうのだ。  勢いをつけて起き上がり、わたしは学校に行く支度を始めた。  いつもよりすこしだけ早い時間、わたしはまだ色づいていない緑色の紫陽花の花の奥に、きっとちょっと先の紫陽花の色と同じ、淡い紫色の封筒に返事を入れて、そっと手紙を差し込んだ。  ちゃんととどきますように。返事、くるといいな。  普段そんなこと全然しないのに、なぜだかそうしたくなって、ちょっとだけ紫陽花に手を合わせた。そうすれば、紫陽花があの手紙をくれた人以外からは、手紙を隠してくれそうな気がしたから。  一昨日までが嘘のように、学校へ向かうわたしの足取りは軽かった。
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