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はじまり
拝啓
この手紙が誰かに届くことがあり得るとは思えないけれど。
はじめまして。ぼくは、ずっと、長い間、入院しています。
姉さんはよく会いに来てくれるけれど、父さん母さんとは仕事が忙しくてなかなか会えません。ぼくを診てくださっているお医者さんや看護婦さんたち、みんな優しくしてくれるけれど、やっぱり、忙しそうです。ぼくの病室はひとり用なので、同室の方もいらっしゃいません。
つまるところ、ぼくはこれを読む貴方に、ぼくの友だちになってほしいのです。そして、もしよければ、おはなしを聞かせてほしいのです。
幼少の頃より病気がちで、こうしたことを頼むことができる友人が、ぼくにはいないのです。姉さんにねだればよいのかもしれませんが、いまもずいぶん迷惑をかけているのに、彼女にこれ以上を頼むのは気が進まないのです。
回りくどくてすみません。でも、言葉を尽くす以外に術を知らないのです。自分でもどうかと思うのですが、もっとよい方法なんて、ぼくには皆目見当もつかないのです。
ぼくの唯一の友達は本でした。本はぼくに様々なことを教えてくれたし、いろんな想像を与えてくれました。ただ、なにかを表現して伝える方法の実践しかたは、教えてくれませんでした。本は、ただ、ぼくに語るのみです。
乱れた文章、文字ですみません。すっかり不慣れなことになってしまいました。体力がないもので、いつも寝ているものですから。御容赦ください。
だれかに届きますように。
敬具
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