雨を飲む

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サアアアアア――…… 僕があの人に拾われて、この家に来てから。 桜が咲いて、暑くなって、金木犀が香って。 そしてまた、寒く冷たい雨が降っている。 「あら、おはよう猫ちゃん。お名前は?」 「ナア」 レインです、僕は。貴女につけられた名前です。 貴女にこうして自己紹介するのは、雨の降った日の回数よりは、多いですね。でも、いいんです。貴女のことが大好きだから。それに、 「そうね……。じゃあ、レインって呼ぶわね。ごめんなさいね、前と違っていたら」 ほら、やっぱり貴女は貴女です。絶対に、僕の名前を間違えない。 「今日は雨ね……。あなた、雨は好き?」 「ナア」 あんまり、好きじゃないんです。貴女が、悲しそうにするから。時々風邪を引いてしまうから。 けれど、貴女が好きなら、僕も好きってことにしましょう。 「ふふ。私はね、雨が好きなのよ。雨は、天国の人達が、私たちのために降らせてくれているんだわ」 そう、なんですか? 貴女が言うなら、そうなんですね。 「今日は、お散歩でもしようかしら。雨の日のお散歩はね、いつもと違う景色が見えるのよ」 ねえ、ご主人。どうして貴女は、雨を飲むんです? 僕の名前を忘れても、貴女は必ず、雨を飲む。 美味しいですか? 水なら水道があるでしょうに。 また風邪を引いてしまいます。どうして? どうして貴女は、雨の日は、そんなに悲しそうにするんですか……?
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