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01
熊を殺すと雨が降る。
少年はよく祖父からそんな話を聞かされた。
山神の血洗い。
熊の流した血を洗い流すために山神が雨を降らすのだと。
祖父は猟師で、今も猟銃を担いで山に入る。
すでに六十を超えると言うのに、山を自在に歩む。
しかしながら、少年が記憶する限り祖父が狩ってくるのは野鳥ばかり。
鹿や猪を狩ってくることすら滅多になく、熊を仕留めてきた記憶などまるでない。
それなのに、熊を殺した時の話を繰り返し聞かされても、中学に上がって反抗期真っ盛りの少年にとっては、鬱陶しいばかりである。
雨など熊が死なずとも降るのである。
天気予報を見ればそんなことは明らかだ。
雨は、自然現象に過ぎない。
梅雨に五月雨、時雨・秋雨、鬼雨に村雨、俄雨。
この雨の多い国で、雨が降るたび熊が死んでいるのでは、熊はきっととうの昔に絶滅している
その冬、例年のごとく訪れた山中の祖父の家。
少年は少々機嫌が悪かった。
というは、今日の昼ごろ祖父に思い切りぶん殴られたからだ。
猟銃のしまわれたガンロッカー。その鍵を開けようとしているのを見つかり、問答無用で拳骨を食らった。
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