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 熊を殺すと雨が降る。  少年はよく祖父からそんな話を聞かされた。  山神の血洗い。  熊の流した血を洗い流すために山神が雨を降らすのだと。  祖父は猟師で、今も猟銃を担いで山に入る。  すでに六十を超えると言うのに、山を自在に歩む。  しかしながら、少年が記憶する限り祖父が狩ってくるのは野鳥ばかり。  鹿や猪を狩ってくることすら滅多になく、熊を仕留めてきた記憶などまるでない。  それなのに、熊を殺した時の話を繰り返し聞かされても、中学に上がって反抗期真っ盛りの少年にとっては、鬱陶しいばかりである。  雨など熊が死なずとも降るのである。  天気予報を見ればそんなことは明らかだ。  雨は、自然現象に過ぎない。  梅雨に五月雨、時雨・秋雨、鬼雨に村雨、俄雨。  この雨の多い国で、雨が降るたび熊が死んでいるのでは、熊はきっととうの昔に絶滅している  その冬、例年のごとく訪れた山中の祖父の家。  少年は少々機嫌が悪かった。  というは、今日の昼ごろ祖父に思い切りぶん殴られたからだ。  猟銃のしまわれたガンロッカー。その鍵を開けようとしているのを見つかり、問答無用で拳骨を食らった。
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