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「いてぇー」 ──ちょっと触るくらい良いじゃないか。  そう思ったが、祖父にそれを言う度胸はなかった。  玄関先で風に当たりながら、拳骨の跡を氷枕で冷やす。  家の明かりから少し遠ざかるだけで、星が夜空を埋めて見える。  ここしばらく吹雪いていたので、久方ぶりの星空だった。  視線を下ろすと、山が深い闇を称えている。  視界のまるで及ばない、吸い込まれそうな黒。 「おう、今年も来たんか」  不意に声をかけられて、振り返ると初老の男が雪道を登ってきたところだった。  村長だった。  疲れた顔に、無理やりに笑顔をくっつけている。 「爺ちゃんいるかい?」 「……居間で酒飲んでるよ」 「そうか、そうか」
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