序章

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 少女は泣いていた。 「どうかしたのかい?」  女の子よりも三、四歳年上だろうか、優しそうな笑みを浮かべながら、十歳ほどの少年は少女の頭を軽く撫でる。  それでも少女は泣くのをやめない。よほど怖い出来事があったのか、それとも嫌なことがあったのか――どちらにしても少女の身に何かが起きたのは容易に想像できた。 「泣いてるばかりじゃ分からないんだけどなあ」  彼は困ったように苦笑いを浮かべると、何かを思い出したように『そうだ』と呟く。 「これ、あげるよ」  ポケットから取り出したのは一つのアメ。 「ひっく……くれるの?」  少女はクリクリした目を大粒の涙でいっぱいにしながら彼の持つアメに目を向ける。少女が泣き止んだことにホッとした彼は微笑みながらアメを差し出す。 「うん、あげる。さっき看護婦さんがくれたんだ」  アメを貰った少女は曇り空から一閃の光が漏れたかの如く、笑顔になる。そうして包み紙をとると、嬉しそうにアメを頬張った。
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