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「おいしい?」
「おいしい!」
彼が頭を撫でながら聞いてくると間髪いれずに少女は満面の笑みをこぼしながらそう答える。
それは良かった。彼も嬉しそうに呟くと、どうして泣いていたんだい? と優しく紡いだ。
その瞬間、少女は悲しそうな表情を浮かべるが、小さい拳を力いっぱい握り締めると『へ』の字に結んだ口をゆっくりと開く。
「と、ともだちとけんかしちゃったの」
虫の羽音のような、心細い声だった。
「で、でもね。あたしは何もしてないの、ともだちが勝手にあたしのこと仲間はずれにしたの」
少女の、悲痛の叫びだったことは彼にも分かった。
「だから、けんかしちゃったの」
俯く少女。彼もまた居た堪れない気持ちに陥る。
再び泣きそうに下唇を噛み締める少女を――彼は自分の胸元に手繰り寄せ抱きしめた。
糸がぷつりと切れたように少女の目からは大粒の涙が零れ始める。
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