僕が神様に願うたった一つのこと

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 まだ薄暗く人通りが全くない、早朝の道を僕は走っていた。  聞こえるのは鳥の鳴き声ばかりで人工的な音はほとんど聞こえない。  普段の街とは違う、どこか違う場所に来てしまった。――そんな感覚。 「はぁ……はぁ……」  このランニングは毎朝の日課となっていた。  始まりはそう、僕の所属する陸上部に朝練というものが無いこと。  中学の陸上部では毎日朝練があり、朝から走ることが当たり前だった。  しかし高校に入学し、ここでも陸上部に入部したのだが、なんとこの陸上部には朝練が存在しなかった。  走ることが当たり前になっていた僕にとってそれは衝撃で、そのため僕は自然と毎朝自主的にランニングをするようになった。 「はぁ……はぁ…………ふう」  僕は立ち止まり、一息つく。  僕は基本的にランニング中は休憩したりしない。ではなぜ立ち止まったかというと、 「じゃあ、今日の分」  そこは神社だった。  僕は右ポケットから財布を取り出すと、その中から十円玉を掴む。  そしてそれを賽銭箱へと投げ入れた。  この神社は僕がランニングの折り返し地点に決めている場所で、僕は毎朝ついでにお参りをしていた。  投げ入れる賽銭はその日によってまちまちであり、一円の日もあれば五百円の日もある。その日の気分と財布の中身によって賽銭を決めている。  僕は手を合わせ、目を閉じる。 「………………」  別に何かを祈っているわけでもない。ただそうしているだけだ。  こうして毎朝お参りに来ている姿は、熱心に神道を信仰してるようにも見えてしまうが、僕は宗教に興味をもったことは一度も無い。多くの人と同じ、そういうものだからそうしている、そこに信じる心や縋る気持ちは無い。  神が存在するかと聞かれれば、存在しないと答えるが、存在してほしいとも思う。 「じゃ、いくか」  お参りが終わると、僕は元来た道に向かって走り出す。  神は信じていない。そう言ったが、お参りの後は不思議と晴れやかな気分になる。  その足取りは気のせいか軽くなっていた。
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