僕が神様に願うたった一つのこと

3/8
前へ
/8ページ
次へ
「いいか? 落ち着ていけ。お前なら絶対勝てる。自信をもっていってこい」 「――はい!」  先生に背中を押されると、僕はスタートの場所へと向かった。  ――今日は陸上の大会の日。  僕は今から百メートルの部門に出場することになっている。  準備はしてきた。毎朝、毎日頑張ってきたのは今日のため。その成果を見せる舞台だ。 「――選手の皆さんはスタート地点にて準備をお願いします。まもなく始まります」  中学でもこのような大会には出場してきた。  だけどそれとは違う。見に来ている観客の数も、競技場の大きさも。  大会には慣れてきたと思っていたが、僕は久しぶりに緊張を感じていた。  ――始まりを告げる銃声が鳴り響く。  スタートダッシュは悪くない。いやむしろとても良い。だが、 「……ッ」  隣の男。隣を走る男との距離がすでに離されていた。  ――おかしい。そう感じた。  スタートダッシュをミスしたわけでもなく、なのに前方に彼はいた。  まさか…………だが、今はそんなことを考えている暇はない。走ること、それだけに集中するべきだ。  走る。だが隣の男との距離は縮まらない。  男と僕の加速力は同じくらい。  だから――スタートが勝敗を分ける。  ――ゴール手前十メートル。  厳しい。僕自身がそう思ってしまった、その時、 「――――ッ?」  背中に謎の感触。  その感触は僕の背中を強い力で押し、僕を前へと進ませる。  一瞬後ろを走ってる選手に押されているのかと思った。しかしそんなはずはない。走りながらこんな強さで背中を押せるはずがないし、そもそも押す理由がない。  ――人間技じゃない。  そう思った時、僕はスッと理解した。  そして―――― 「……………………」  ……僕は、足を止めた。 「おいどうした! 怪我でもしたのか?」  遠くから僕を心配する先生の声が聞こえる。  ああ、先生には申し訳ないことをしたな。そうぼんやりと思った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加