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『違う?』
「はい、そうです神様。たしかにあのまま押されていれば、勝つことはできたでしょう」
『じゃあ何故!』
「勝手な想像ですが、おそらく神様は僕が毎日お参りに来てくれるので、それに報いようとあのような事をしてくれたのではないですか?」
『ああそうだ。この頃は神社に来る者すらほとんどいない。だから、お前の願いを叶えようと……』
「僕は神社で何かを願った事はありません」
『お前の望みは大会で優勝することなのだろう? だから我は』
「その望みは己の力で勝ち取るものです。誰かに与えられるものではありません」
『隣の男。あの男は音より僅かに早く走り出していた。そのような者相手に遠慮する必要もなかった』
思っていた通り、彼はフライングをしておいたようだ。
「彼の事は関係ありません。この競技は本来並んで競うものではなく、タイムで競う競技です。彼がズルをしたからといって、僕もそれをしてしまっては同じ競技をしている世界中の人に対してズルを行う事を同義です」
『だ、だがあの大会で勝たなければ、次の大会には出られないのだろう? それで良かったのか?』
「…………たしかに、あの大会は大事でした。僕に期待をかけてくださった先生、僕の代わりに大会に出られなかった友人。彼らを僕は裏切ってしまったのですから。僕にも罪悪感はあります」
心に残るトゲ。
「でも僕はあれで良かったと思います。――神様、ありがとうございました。僕のために力を使ってくださって。でも、今度は自分の力で勝てるよう、頑張りたいです」
嘘偽りのない僕の本心であった。
「では、失礼します」
僕は神社から立ち去ろうとした。ここは夢だが、何故かそれで現実に戻れる気がした。
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