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出生時に遺伝子検査を行い、適性の高い人間に幼少時から対象の種目に特化した英才教育を施す――こうした制度を最初に導入したのは、確か中国だったか。陸上競技の様に身体能力が成績に直結するタイプのスポーツでは、特にその効果は顕著であり、多くの国が次々と同様の制度を導入した。
そうなれば当然、日本もそれらの国に続くべしという意見が出てくる。しかし、『生まれた時点で遺伝子に基づき職業が決定されるディストピアの始まりだ』と非難する声も大きく、政府はこの制度の導入を躊躇した。
そうした状況に業を煮やしたのか、ある資産家が一つのスポーツ振興財団を立ち上げる。そして、この財団の資金により、日本でも、標準的な出生時遺伝子検査――これは遺伝性疾患の有無について調べるためのものだ――を行う際に、無料で各競技に対する適性検査を追加できるようになった。
この検査の結果、子供達は適性度の高い方からゴールド、シルバー、ブロンズの各ランク、そしてランク外に格付けされる。そして、何らかの競技に対するブロンズ以上のランク判定が出た子供の家庭には、財団が設立した選手養成所への入校申込書が送付されるのだ。
この養成所もまた無料であり、しかも講師陣には元オリンピック選手や日本記録保持者など錚々たる顔ぶれが揃えられている。その一人である私も、かつてはマラソンの日本代表だった。
財団の遺伝子検査を子供に受けさせるかどうかはあくまでも任意だ。
だが、費用は無料で、なおかつ標準検査用に採取したサンプルをそのまま流用するため手間もかからない。ただ『スポーツ適性に関する追加検査(無料)を希望しますか?』の項目で『はい』の方にチェックを入れさえすれば良いのだ。そのため、深く考えずに検査を受けさせる親も多い。
なにしろ、受けたところで何のデメリットがあるわけでもない。
検査を受けた子供のうち99.9%は全種目でランク外判定が出るため駄目で元々ではあるが、運良くブロンズ以上の判定が出れば一流の指導者による英才教育が無料で受けられ、将来スポーツ選手として活躍できる可能性がぐっと広がるのだ。
仮に入校申込書が送られてきたとしても実際に申し込むかどうかは任意であり、そして入校後にやめるのもまた自由だ。
この点については、前述の様な世論の反発を和らげるべく、養成所はしつこいくらいに強調していた。
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