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やめることが容易い一方、養成所に在籍し続けることは簡単ではない。年に一度、試験があり、それに落ちた者は在籍資格を失うのだ。
こちらは、当然といえば当然かもしれない。いくら遺伝子レベルで適性が高くとも、サボってばかりで成績がふるわない人間の面倒までいつまでも見続けていては、資金がいくらあっても足りない。
だが、私がこれまで見てきた限り、怠惰故に試験に落ちた者は一割いるかいないかだ。
残りの九割のうち二割ほどは、物心つかぬうちに養成所に入れられたことに反発し、意図的に成績を下げた者である。そして大多数を占めるそれ以外は、努力しているにも関わらず実力が足りなかったタイプだ。
更に言えば、その多くがブロンズランクの遺伝子を持つ子供達である。全国レベルで言えば生まれながらに選ばれた人間と言っても過言ではないブロンズランクでも、ゴールドやシルバーがひしめく養成所内で勝ち残れることはほとんど無いのだ。
ブロンズランクの落第率のあまりの高さ故に、財団内では、もういっそブロンズランクの子供に入校資格を与えるのをやめてはどうかという声もあるらしい。
だが、極めて稀にではあるが、ブロンズランクであってもゴールドランク以上の記録を叩き出す子供もいる。環境因子の影響もあるため、遺伝子を見ただけでは予測には限界があるということらしい。
そのため養成所では、遺伝子情報だけでなく入校した後の実測値も活用して予測を立てるシステムを導入している。
そしてそのシステムは、この学年最後のブロンズランク・ジーンホルダーである彼が、次の試験で合格ラインとされるタイムに17分差で届かないであろうと予測していた。
予測のことは、子供達には知らされていない。悲観的な予測を知ってやる気を失ってしまう子供や、逆に良い予測を知って慢心してしまう子供、予測と同程度のタイムを出せた時点で『これでもういいか』と妥協してしまう子供などが出かねないからだ。
だから彼も、自分の落第が予測されているとは知らない。
だが、試験突破に必要なタイムは知らされているため、このままではそこに達するのが困難だという自覚はあるのだろう。今日測定したタイムを聞いた時の彼の表情は、焦燥感に満ちていた。
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