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そして、試験の日がやってきた。
グラウンドのスタート地点から校門を経て養成所の傍にある湖の周囲を一周し、再びグラウンドに戻ってくるというのが、私が指導している長距離走部門の試験コースである。
やはり早い段階でグラウンドに戻ってくるのは、ゴールドランクの子供達が多い。
二、三人程度ではあるが、シルバーランクにも関わらず上位に食い込んでくる子供達もいる。
しかしいずれの場合も共通しているのは、予測との高い一致だ。最新の人工知能を利用しているだけあって、実測値とのズレは多くの場合10秒以下、30秒を超えることはほとんど無い。
次々と子供達がゴールへ到達し、残るはあと一人のみとなった。
ブロンズランクの彼だ。残り時間3分を切っても、彼の姿はまだ見えない。
私は、落胆してはいなかった。既に覚悟していたことだ。予測では、彼がゴールから見える位置まで来た時点で、既に合格ラインを13分過ぎていることになっているのだから。
残り1分になった。18分後の彼にかけるべき慰めの言葉を頭の中で反芻していた私は、目を見開いて思わず立ち上がった。
そこには、彼の姿があった。あと14分は現れないはずだった彼が、確かにそこにいたのだ。
彼は、今まで見せたことがないスピードでラストスパートをかけ、ゴールに飛び込んだ。私は、急いでタイムを確認した。その値は予測を15分上回り……そして、合格ラインに2分届かなかった。
私は、自分のタイムを知ってがっくりと膝をついた彼に歩み寄って、声をかけた。
「お前は……本当に、すごいよ」
それは事前に用意していた慰めの言葉ではなく、その場で湧き上がってきた賞賛だった。
「これほど予測を超えられたのは、お前だけだ」
息が上がってろくに喋ることもできない彼は、何を言っているのか分からないという表情でこちらを見上げてきた。
分からなくて当然だった。
彼は、予測システムのことなど何も知らされてはいないのだから。
ただ、それでも私は、彼を讃えずにはいられなかったのだ。
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