2/4
前へ
/15ページ
次へ
今週から梅雨入りしたとニュースで聞いた。 ベランダにできた水たまりから、ピシャンと雨音が聞こえる。 雨音に誘われるように、ふと彼を想う。 結局『大丈夫です』と言えなかった心残りと一緒に。 その度に、あの箱を開けて手紙の匂いを嗅いだ。 紙とインクの匂い。 私にとっての、彼の匂い。 何度も何度も開け閉めするから、インクの匂いはすっかり消えてしまった。 もう彼の匂いがしない。 あれから何度自分に言い聞かせただろう。 『どんなに焦がれても、抗ってみても、ダメなものはダメなんだ』と。 今でもチクチクと胸を刺す言葉。 私はちっとも潔くなんかなかった。 せっかく彼に言ってもらったのに。 潔い私を尊敬してもらったのに……。いつまでも前に進めず、彼の言葉に縋っている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加