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休日の雨の日は、雨に濡れる紫陽花を見に行こうと決めていた。
雨を待ち望む紫陽花。晴れの日よりもずっとずっと嬉しそうに見えるから。
けれど、あんなにウキウキしていた雨のお出かけは、いつのまにか少しだけ切なくなっていた。傘をくるくるまわす癖も、最近はあまりしなくなっていた。
家に帰るといつものようにポストを覗く。何の期待もしていないのに、無意識に少しがっかりする時がある。その理由に気づいてしまうと、やるせない思いが胸に広がってため息が漏れる。
けれど、この日は少し違っていた。
初めて彼にファンレターを出した時に問い合わせた編集者から、手紙が届いていた。
手紙を開けると、開封後の私の手紙が入っていた。
私が彼に宛てたファンレターだった。きっと彼がその場で読んだものなのだろう。
そこにある私の言葉は作品への愛おしさで溢れていた。
彼の作品に夢中になり、文章は支離滅裂。熱い思いは伝わるけれど、熱すぎてちょっと引くレベル。
思わず苦笑いが漏れる。
彼はこのファンレターを読んで、どう思っただろう。
熱すぎて、不気味に感じただろうか……。
手紙箱からその返事を取りだして開いてみる。
そうだ。彼はどんなに拙い言葉にも耳を傾け、そして暖かい返事をくれる人だった。
彼からの返事はいつだって、真摯で率直だった。
「文通はおしまいです」と宣告された時でさえ、誤魔化さずに向きあってくれた。
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