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海老原がテーブルの上で指を組む。「八雲美鶴という名前に聞き覚えはございませんか?」
「八雲……ああ、先週だったか、一度診察にきていますね。大学生だったかな。今どきの子にしては珍しいくらい、お淑やかな雰囲気の方でした。何か?」
若山が割って入る。「単刀直入に言いますと殺人の容疑がかかっています」
「おい。……っと、失礼しました。あくまでも容疑です。現在行方不明でしてね。捜索中です」
状況が飲み込めない一条寺は、ただ短いまばたきを繰り返していた。その様子を察して、海老原が若山にアイコンタクトを送る。「では、私から説明させていただきます。事件が起きたのは昨日、明け方から早朝にかけて。その日の朝八時頃に隣人に発見されています」
「あー、もういい。もういいよ。捜査会議じゃないんだ、簡単に解りやすく」海老原は組んでいた指をほどき、姿勢を正す。「八雲美鶴さんの自宅で一家殺害事件が起こりました。美鶴さんは、現場状況から誘拐の線もありましてね。公開捜査は一旦見送り、慎重に行動せざるを得ないという状態です」
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