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黄色いベンチに少女が腰掛けている。幼い容姿には似つかわしくない毛皮のコート、毛皮の帽子。感情の無い虚ろな瞳はどこか神秘的に見えた。
辺りには他に誰もいない。八雲美鶴が声を掛けるには充分な理由だった。「どうしたの? 迷子?」
「迷子? それは俺の事? それとも君の事かい?」抑揚の無い少女の声。それ以上何も言わず、八雲美鶴をじっと見つめる。
八雲美鶴は言われた意味が解らず、周囲を見回した。そこで初めて、この世の物とは思えない景色が広がっている事に気がつく。「ここ……どこだろう?」
「ここかい? このベンチは俺のお気に入りなんだ」
「ううん。そうじゃなくて。私、夢を見てるのかな?」
「夢じゃないさ。そうか。君は、また忘れてしまったんだね。君と会うのは初めてではないのに」
「私と会った事があるの?」
「あるさ。いいよ、聞かせてあげる。夢と現の狭間にある世界の話を」
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