とある殺人事件について

3/9
前へ
/14ページ
次へ
「戻りました」 「おかえりなさい。降られなかった?」病院の待合室には、眼鏡をかけた細面の男が一人。立ったまま、プラスチック製のマグカップでコーヒーを飲んでいる。歳は四十を超えているが、童顔にミスマッチな痩けた頬が年齢不詳にみせる。 「あ、ホットにしたんですか? 少し待っててくれれば」私が淹れたのにと言いかけて、「先生。それ私のマグカップです」と一段低い声。 「あれ? こっちだったっけ? あれ?」 「もう」と膨れる。「はい、シーフードでしたよね。先生、カップラーメンばっかり食べてないで、早くお嫁さん貰ってお弁当でも持ってきてくださいね」と受付カウンターの上にその日の昼食を置いた。 「美々ちゃんこそ。サラダだけじゃ身体が持たないよ?」 「夏に向けてダイエットです!」胸の前に両手を持って行き、グッと、こぶしを握りしめて見せた。 「女性が考えている程、男は細いウエストなんて魅力感じてないんだけどなあ」  ついさっきも似たようなセリフを聞いた、と思い出して、美々は吹き出しそうになった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加