鷹城兄弟

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昼頃。siegの屋敷では。 雨もすっかり上がり、なんなら朝ご飯まで共にした石狩が屋敷を出て行こうとしていた。 昨晩の遅くまで、秋臣に会うと聞かなかった石狩だったが、事のあらましを全て聞いた比呂が石狩を説得したのだ。 アキがどう思っているのかは分からないが、これは慎重になるべき一件だと、比呂は判断した。 「…では、御迷惑をおかけしました。私は戻ります」 身支度を整えた石狩が深々と頭を下げる。 向かいのソファーにふんぞりかえるように座っていた比呂は「おう」と手を上げる。 「ちゃんと病院行ってくれよ。あと数年でアキも成人するしさ。それまでに会う機会は必ず設けっから」 石狩が癌に侵されている事は昨日知った。 アキが成人するまで3年。それまで石狩の体が保つ保証など無いが、要は心意気だと比呂は思っている。 病気等とは縁遠い比呂ならではの発想だったが、石狩はそれに納得してくれた。諦めに近いものなのかもしれないが。 「…哲章さん、俺も動いてみるよ。秋臣とちゃんと向き合って話してみる。だから哲章さんは心配せず治療に専念してくれ」 「……冬臣、」石狩の目に涙が浮かんだ。 「歳を取るといかんな」と言って涙を拭く石狩は、秋臣の事を本当に心の底から思っている事がその姿から伺えて、 自分には無いと思っていた良心が疼くのを比呂は感じた。 「……俺には、あんたらの話をアキに聞かせれば万事解決するとしか思えねぇんだけど」 比呂が頭を掻く。冬臣の顔が曇った。 「…昨日も話した通り、全てを話せば秋臣が無茶をしてしまうかもしれない。犯人もまだ捕まっていないし、正体を知ったら、秋臣は……それがとても怖いんです。」 「…まあ、それはなー。俺の心配どころもそれよ。まだガキだから、アイツも」 それに、頑固だし?比呂は肩を竦める。
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